エスプレッソトニックとは何か——北欧で生まれ、サードウェーブが世界へ届けた一杯
エスプレッソトニックは、エスプレッソとトニックウォーターを合わせたコーヒー飲料です。2007年にノルウェーのオスロで生まれ、スウェーデンの Koppi Roasters を起点に、サードウェーブのコーヒー文化とともに世界に広がりました。
ある朝、スタッフパーティの翌朝のことだった。誰かが残ったトニックウォーターに、シロップを少しだけ落とし、エスプレッソを注いだ。それが、いまや夏の世界中のカフェで見かける一杯のはじまりだった、と伝えられています。
冷たい、甘くて苦い、そして爽やか。この飲み物は、ただ「夏に売れる新作」として広まったわけではありませんでした。なぜスペシャルティコーヒーの文化と一緒に、世界に届いたのか。順を追って書いていきます。
エスプレッソトニックは、いつ・どこから生まれたのか
エスプレッソトニックは、2007年にノルウェーのオスロで生まれたと記録されています。発端は、あるバリスタのささやかな思いつきでした。
その日は、スタッフパーティの翌朝。仕事に戻ったバリスタの一人が、店に残っていたトニックウォーターに、シロップをわずかに加えて、淹れたてのエスプレッソを上から注いだ。アルコールはない。けれど、新鮮で、すっきりした飲み物が、そこに生まれていました。
このバリスタが働いていたのは、後にスウェーデンで Koppi Roasters を立ち上げる Anne Lunell(アンネ・ルーネル)と Charles Nystrand(チャールズ・ニストランド)のチームだった、と伝えられています。彼らはこの即興のレシピを面白がり、メニュー化を決めました。同じ年のうちに、Koppi Roasters のヘルシンボリ店で「Kaffe & Tonic」(コーヒー&トニック)の名で正式に提供が始まります。
ヘルシンボリは、スウェーデン南部の港町です。コペンハーゲンからフェリーで20分ほどの距離にある、北欧スペシャルティコーヒー文化の重要な拠点の一つでした。Koppi Roasters は、ここで10年間にわたって Kaffe & Tonic を提供し続けました。2017年12月にカフェが閉店するまで、この一杯は店の代名詞のような存在だったと言われています。
ヘルシンボリの店で愛され続けるあいだに、Kaffe & Tonic はスカンジナビア全域へ広がっていきました。同じ北欧の文脈にあったコペンハーゲン、ストックホルム、オスロのカフェがそれぞれの解釈で取り入れ、夏の定番として定着していきました。
ここまでが、エスプレッソトニックの「誕生」の話です。ただ、興味深いのは、ここからの広がり方でした。なぜ、北欧の港町の一杯が、世界中のカフェに広まったのか。次の節で、その背景を見ていきます。
なぜ、この飲み物は世界に広まったのか
エスプレッソトニックが世界中に広がっていった2010年代は、スペシャルティコーヒーの文化が世界中で花開いた時期と重なります。いわゆる「サードウェーブ」と呼ばれるコーヒー文化の隆盛が、この飲み物の追い風となりました。
サードウェーブ以前のコーヒーは、エスプレッソといえば「ミルクと合わせる」「砂糖でととのえる」「ホットで飲む」という前提が強かった時代です。けれどサードウェーブは、コーヒー豆を産地ごと、農園ごと、品種ごとに評価する文化を持ち込みました。豆そのもののフレーバーが、ワインのように語られるようになっていきます。
特に、明るく華やかな酸味を持つ浅煎りの豆は、それまでの「コーヒーは深煎りで濃いもの」という認識を覆しました。レモン、ベリー、ストーンフルーツ、花のような香り——これらをはっきりと感じさせる浅煎りのエスプレッソが、専門店のメニューに増えていったのです。
ここで、トニックウォーターとの相性が決定打になります。トニックウォーターには、キナ皮由来の特有の苦味と、わずかな甘み、そして強い炭酸があります。浅煎りエスプレッソの果実的な酸味と、トニックの苦味は、お互いを引き立て合う関係にありました。コーヒーの果実感は炭酸で開き、トニックの苦味はコーヒーのコクで深まる。
国際バリスタ大会も、広がりに一役買いました。世界中のバリスタが、自国のコーヒー文化を発信する場として、シグネチャードリンク部門でエスプレッソトニックを取り上げます。北米、アジア、オセアニアのスペシャルティシーンに、この飲み物が伝わっていきました。
そして、SNS の存在も大きかったと思います。透き通ったグラスの中で、コーヒーの黒とトニックの透明が層を成し、氷越しに見える二層の景色は、写真に撮りたくなる飲み物です。Instagram の普及と歩調を合わせて、エスプレッソトニックは「夏のカフェ写真の定番」になっていきました。
文化、相性、競技、ビジュアル。これらが揃って、北欧で生まれた一杯は、世界中の夏に届くようになったのです。
ここまでがエスプレッソトニックの「広がり」の話です。次の節からは、実際にどう作るのか、家でおいしく作るためのコツを書いていきます。
どうすれば、自宅でおいしいエスプレッソトニックが作れるのか
エスプレッソトニックは、家で再現するハードルが意外と低い飲み物です。必要なのは、エスプレッソとトニックウォーター、そして氷。それだけで成立します。
標準的な配合は、エスプレッソ30ml に対してトニックウォーター120ml。グラスにはたっぷりの氷を入れる。これが世界中のカフェで採用されている、おおまかな比率です。
作る順序は、トニックウォーターを先に注ぎ、後からエスプレッソを上から落とすのが一般的です。エスプレッソが氷を伝って下に沈むように、ゆっくり注ぐと、グラスの中に二層の層ができます。撮影目的なら、この層をはっきり出すように注ぎます。飲むときに混ぜれば、味は均一になります。
ここで、おいしさを左右する三つのポイントがあります。
一つ目は、豆の選び方。エスプレッソトニックには、浅煎りの豆が向いています。深煎りの豆だと、トニックの苦味と豆の苦味がぶつかり合って、重たい味わいになりやすい。一方、浅煎りの豆の華やかな酸味は、トニックの苦味と炭酸の中で開いていきます。エチオピア、ケニア、ルワンダといった、フルーティーな酸味を持つ産地の豆と相性がよいです。
二つ目は、トニックウォーターの選び方。普段、ジン・トニックなどに使われる質の高いトニックウォーターには、キナの香りがはっきりと感じられるものが多いです。シュウェップス、フィーバーツリーなど、各国に定番の銘柄があります。スーパーマーケットで手に入る一般的な銘柄でも作れますが、コーヒーの繊細な香りを引き立たせたいなら、キナの香りがしっかりしたものを選びたいところです。
三つ目は、エスプレッソの淹れ立てを使うこと。エスプレッソは抽出から時間が経つと、香りが急速に落ちていきます。トニックに混ぜる前提でも、淹れ立ての一杯を使うかどうかで、最終的な香りの感じ方は変わります。
「エスプレッソトニックを試したけれど、いまひとつだった」と感じる方の多くは、この三つのどこかで合っていない可能性が高いです。深煎りの豆を使った、トニックの選び方が合っていなかった、エスプレッソが時間経過したものだった——いずれかが当てはまる場合は、もう一度別の組み合わせで試していただきたい一杯です。
アレンジとしては、シロップを少量加えると、最初の一口の苦味が和らぎます。シンプルシロップでもよいですし、エルダーフラワーシロップを使うと、北欧らしい花の香りが加わります。オレンジの皮を絞って香りを移すアレンジも、世界の多くのカフェで定番化しています。
家でゆっくりと淹れたエスプレッソを、氷の入ったグラスに合わせる。それだけで、北欧のカフェの夏が、台所に運ばれてきます。
スタバ・チェーンと、スペシャルティ系では何が違うのか
エスプレッソトニックは、いまでは世界の多くのチェーン店でも扱われています。日本でも、エクセルシオールカフェなどが季節限定で提供している時期があります。
スターバックスでは、「エスプレッソ&トニック」のような名前で、季節メニューとして登場することがあります(地域・年によって扱いが異なります)。スターバックスのスタンダードなブレンドは中深煎り寄りで、果実感よりもコクと深みのあるエスプレッソを基調にしています。これにトニックを合わせると、苦味と苦味が重なって、コーヒー側の主張が強い飲み物になります。
一方、スペシャルティコーヒーロースターでは、エスプレッソトニックは浅煎りの豆を前提に設計されていることが多いです。豆そのものの華やかな酸味と、トニックの苦味・炭酸のバランスで、より軽やかで複雑な味わいを目指す。同じ「エスプレッソトニック」でも、設計思想がまったく違うわけです。
これは優劣の話ではなく、別の方向性です。深煎りの重厚な味わいに馴染んだ方には、チェーン系のエスプレッソトニックが合うかもしれません。フルーティで明るいコーヒーが好きな方には、スペシャルティ系のエスプレッソトニックが響くと思います。
家で作るときには、自分が好きな方向性に合わせて豆を選ぶことになります。スペシャルティ系の浅煎り豆は、近年では通販でも手に入りやすくなりました。スーパーマーケットの豆でも、産地表記のある軽め焙煎のものを選べば、家庭で十分に楽しめます。
私たち Espresso Refill の生エスプレッソは、エスプレッソマシンがなくても、瓶を開けて注ぐだけで使えます。家でエスプレッソトニックを試したい方には、選択肢の一つとしてご検討いただけます。特に Yellow ラベル(エチオピアなどの軽やかな浅煎り)と Red ラベル(高標高地の華やかな浅煎り)が、トニックウォーターと相性がよい設計です。
エスプレッソトニックについて、よくあるご質問
Q. エスプレッソトニックにアルコールは入っていますか?
いいえ、エスプレッソトニックはノンアルコールの飲み物です。トニックウォーター自体に微量のキニーネ(キナ皮由来)が含まれていますが、アルコールは含まれていません。お酒を控えたい場面でも、安心してお選びいただけます。
Q. カロリーは高いですか?
エスプレッソトニックのカロリーは、使用するトニックウォーターの種類によって変わります。一般的な甘味料入りのトニックウォーター(120ml)で約40〜50kcal、エスプレッソ(30ml)は1〜2kcal 程度。合計しても約50kcal 前後で、ジン・トニックなどのアルコール飲料と比べると控えめです。糖質を抑えたい場合は、シュガーレスのトニックを選ぶ方法もあります。
Q. 英語では何と呼ばれていますか?
英語では "espresso tonic" と書きます。発祥地のスウェーデンの Koppi Roasters では「Kaffe & Tonic」(コーヒー&トニック)の名でメニュー化されていました。北欧では「Caffè Tonic」と呼ばれることもあります。
Q. どんなアレンジが定番ですか?
世界中のカフェで定番化しているのは、オレンジの皮を絞って香りを移す、エルダーフラワーシロップを少量加える、ライムを添えるといったアレンジです。北欧の文化を背景にした、花や柑橘の香りを足すスタイルが、エスプレッソトニックの世界観によく合います。
北欧の朝から、あなたの夏へ
エスプレッソトニックは、ある朝の偶然から生まれた飲み物でした。スタッフパーティの翌朝、誰かが残ったトニックにシロップを落とし、エスプレッソを注いだ。それが、いまや世界中の夏のグラスに届いています。
この飲み物の面白さは、誕生のエピソードがすでに語っています。コーヒーには、こうあるべきという正解があるわけではない。豆の個性、グラスの中の温度、合わせる素材、注ぐ順序——どこかを変えれば、別の景色がグラスの中に現れます。
家で淹れる一杯にも、同じ自由があります。浅煎りでも深煎りでも、シロップを足しても足さなくても、オレンジの皮を加えても加えなくても、その日の自分の気分が選ぶ味があっていいのだと思います。
冷たい一杯を片手に、北欧の港町の朝を思い浮かべながら、自分なりのエスプレッソトニックを探してみていただけたら嬉しいです。
私たち Espresso Refill の生エスプレッソは、エスプレッソトニックを家で気軽に試したい方の選択肢の一つとしてご検討いただけます。
参照元
- Wikipedia: Espresso and tonic
- European Coffee Trip: Espresso&Tonic: The Story of the Famous Coffee Drink
- Perfect Daily Grind: What is espresso tonic?