アフォガードとは——「溺れた」の名を持つデザートと、最高の食べ方
アフォガードは、アイスクリームにエスプレッソを注いだ、イタリア生まれのデザートです。ただし、この記事でご紹介したい食べ方は、世の中の一般的な作り方と少し違います。
熱々のエスプレッソを30ml注ぐ——本当にそれが、最高の食べ方でしょうか。
アフォガードとは何か——「溥れた」という名のイタリア菓子
アフォガード(affogato)は、イタリア語で「溥れた」を意味する言葉です。動詞 affogare(溥れる)の過去分詞で、さかのぼればラテン語の offōcāre に行き着きます。エスプレッソを注がれたアイスクリームが、コーヒーの中に溥れていく。その様子からついた名前だと言われています。
発祥には諸説があります。食後の締めくくりとして親しまれたというエミリア=ロマーニャ説。朝の活力源だったとするピエモンテ説。トリノのカフェでエスプレッソとジェラートが偶然出会ったという説。中世ピエモンテの修道士アンジェリコに由来を求める説まであって、はっきりした起源は分かっていません。
記録に現れるのは19世紀末から20世紀初頭。イタリア全土に広まったのは1950年代で、アイスクリームの工業化が進んだ時期と重なります。1992年にはアメリカの辞書 Merriam-Webster に英語として収録されました。いまでは世界中のカフェメニューで見かける、イタリア生まれの定番デザートになっています。
アフォガードの本質は、どこにあるのか
世の中のアフォガードのレシピを見ていると、エスプレッソを熱々のままアイスにたっぷり注ぐ、というやり方が標準になっています。ただ、この作り方には、ひとつ気になる点があります。アイスがすぐに溶けて、エスプレッソと液体として混ざってしまうことです。
液体同士で混ざってしまったあとに残るのは、ただの甘く冷たく高濃度なコーヒーミルクだと思います。これはこれで飲み物として悪くないですし、コーヒーミルクが好きな方にとっては正解の一つになります。ただ、アフォガードという料理がもともと持っていた魅力は、ここではないと思っています。
アフォガードが面白いのは、アイスクリームとエスプレッソが完全には混ざらず、それぞれの形を保ったまま、口の中で同居する瞬間にあります。半固形のアイスと、液体のエスプレッソ。質感の違うふたつが、ひと匈いのなかで隣り合う。これが「共存」の意味です。
イタリア語の affogato は「溥れた」を意味する動詞の過去分詞で、アイスがエスプレッソに溥れる、というイメージから名前が付きました。けれども、本当に溥れさせてしまうと、共存は終わってしまいます。少しずつ溥れていく途中の状態こそが、アフォガードがアフォガードである時間だと思います。
飲み物でも食べ物でもない、と言われることがあります。これはそのまま、アフォガードの構造を言い当てています。液体だけの体験でも、固形だけの体験でもなく、両方が共存しているからこそ、そう呼ばれるのだと思います。
最高のアフォガードの食べ方とは——冷たいまま、少しずつ
世の中のレシピの多くは、淹れたての熱いエスプレッソを 30ml ほど、アイスの上からひと息に注ぎます。この作り方だと、熱でアイスは一気に溶けていきます。共存の時間は短い。
家で作るときは、こうしています。冷たいままのエスプレッソ 15ml を、アイスに少しずつ垂らす。
イメージしていただきたいのは、美味しい寿司屋の醤油です。ネタを醤油にどぼんと浸けるのではなく、刷毛でさっと塗る。あの要領で、エスプレッソを注ぐのではなく、アイスに「塗る」ように少しずつかけていきます。
こうすると、アイスはほとんど溶けません。半固形のアイスの表面に、エスプレッソの凝縮したフレーバーがそのまま乗ります。垂らしては、すくう。アイスとエスプレッソが共存した状態を、最後のひと口まで保てます。
この食べ方の条件は、ひとつだけです。冷やしても風味の落ちていないエスプレッソが、手元にあること。エスプレッソは抽出した瞬間から風味が変わりはじめる飲み物なので、淹れたての熱々をその場で飲むのが当たり前とされてきました。冷たいまま使うという選択肢は、実はあまり知られていません。
私たち Espresso Refill の生エスプレッソは、抽出したての風味を冷蔵のまま保てるように瓶詰めしたエスプレッソです。この食べ方を家で試したい方の、選択肢の一つとしてご検討いただけます。
どのアイスと合わせるか——味変と、ラベル別の相性
基本のアフォガードは、バニラアイスにエスプレッソ。これだけで十分に楽しめますが、少し気分を変えたい日の楽しみ方もあります。
ひとつは、ドライレーズンを上に散らすこと。レーズンの甘酸っぱさとエスプレッソの香りが合わさって、ラムレーズンに近い風味になります。洋酒を使わずにあの雰囲気が出せるので、お酒が苦手な方にも試していただきたい組み合わせです。もうひとつは、アイスをチョコミントに替えること。ミントの清涼感とエスプレッソの苦味は相性が良く、夏の暑い日に向いています。抹茶や紅茶のアイスと合わせてみるのも面白いです。
アイス選びに、エスプレッソ側の性格を重ねる楽しみもあります。ER の4つのラベルで言えば、果実の甘酸っぱさが前に出る Red はラムレーズンアイスと好相性です。華やかで軽やかな Yellow は、チョコミントとの対比で香りの輪郭がはっきりします。王道の Green は、あえてコンビニで売っている普通のカップアイスと。生エスプレッソがあれば、コンビニアイスでも高級ホテルのドルチェに格上げできる——これは冗談ではなく、実際にやってみると分かります。カフェインレスの Blue なら、夜でもカフェインを気にせずに楽しめます。個人的にいちばん気に入っているのは、風呂上がりに、ニュージーランドのホーキーポーキーというアイスへ Blue を垂らす組み合わせです。
アイスは高いものでなくていいですし、決まりもありません。冷凍庫にあるアイスで気軽に試しながら、お好みの組み合わせを見つけていただけたら嬉しいです。ラベルごとの性格は、4ラベルの選び方のページにまとめています。
アフォガードとコーヒーフロートは、どう違うのか
見た目が似ているせいか、コーヒーフロートとの違いをよく聞かれます。並べてみると、別の飲み物・食べ物だと分かります。
コーヒーフロートは、冷たいアイスコーヒーの上にアイスを浮かべたドリンクです。グラスにたっぷり注いで、ストローで飲みながらアイスをすくう。主役はあくまで飲み物としてのコーヒーで、アイスは添え物に近い位置づけです。
アフォガードは逆で、主役はアイス。少量のエスプレッソを注いで——この記事の食べ方なら冷たいまま垂らして——スプーンで食べるデザートです。コーヒーの量は少ないぶん凝縮していて、甘さと苦味の濃度がまるで違います。
飲むフロート、食べるアフォガード。覚え方は、これだけで十分だと思います。
垂らす一皿から、浮かべる一杯へ
アイスにエスプレッソを垂らすのが今日の話なら、次は、エスプレッソにホイップクリームを浮かべる話があります。エスプレッソ・コン・パンナです。イタリアのバールで親しまれてきた、大人の食後の一杯。垂らすか、浮かべるか——形が変われば、同じエスプレッソでも体験は変わります。次はコン・パンナも、試してみていただけたら嬉しいです。
参照元
- Wikipedia(日本語版): アフォガート
- Merriam-Webster Dictionary: affogato
- Oxford English Dictionary: affogato
- Wiktionary: affogato / affogare
アフォガードに合うラベル
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