エスプレッソ・コン・パンナとは——家でも、バールでも、大人の食後の一杯

エスプレッソ・コン・パンナとは——家でも、バールでも、大人の食後の一杯

エスプレッソ・コン・パンナは、エスプレッソに無糖のホイップクリームをひと匈いのせた、イタリア生まれの一杯です。食後の小さなご褒美として楽しまれています。ミルク入りコーヒーは朝のもの、とされるイタリアで、なぜこの一杯だけは食後に許されているのか——そこに、この飲み物の性格が出ています。

はじめてエスプレッソ・コン・パンナを知ったのは、18歳のアルバイト先でした。海外から来たお客さまが、食後にこの一杯を注文したのです。エスプレッソに、冷たいクリームをひと匈い。——食後のコーヒーに、なぜクリームを浮かべるのでしょうか。

エスプレッソ・コン・パンナとは何か——「クリーム入り」のイタリアのコーヒー

イタリア語で caffè con panna。「クリーム入りコーヒー」という意味です。イタリアのバールで caffè と言えばエスプレッソを指しますから、エスプレッソにパンナ(クリーム)をのせた一杯、ということになります。英語圏では espresso con panna、フランスでは café viennois——「ウィーン風カフェ」と呼ばれることもあります。

この「ウィーン風」という呼び名は、由来を正直に映しています。コーヒーにクリームをのせる発想はイタリア土着のものではなく、18〜19世紀のウィーンのカフェ文化から来ています。当時オーストリア領だった北イタリア、とくにトリエステを通じてこの飲み方が伝わり、20世紀にエスプレッソマシンが普及すると、エスプレッソの一変種として定着しました。

面白いのは、イタリアの権威ある食の辞典にも、19世紀の有名な料理書にも、コン・パンナという項目が見当たらないことです。つまりこれは「文献に残る古い伝統」ではなく、「現代のバールで当たり前に作られている習慣」に近い。何世紀も続く格式ある一杯、と紹介したくなるところですが、実際はもっと気軽な、日常の中の飲み物です。

コン・パンナは、いつ飲まれているのか——家でも、バールでも

食後に、もう一杯コーヒーが欲しい。ただ、カプチーノは胃に少し重いし、エスプレッソだけでは物足りない。そんなときにイタリアのバール(エスプレッソを立ち飲みするカフェ・スタンド)で頼まれてきたのが、コン・パンナです。

イタリアのコーヒー文化には、ミルク入りのコーヒーは朝のもの、という不文律があります。カプチーノやカフェラテを食後に頼むと、それだけで旅行者だと分かる、と言われるほどです。ミルクは食後の胃に重い、という感覚が浸透しているのです。

コン・パンナは、この不文律のなかで許されている例外です。ミルクではなくクリームをひと匈い。飲み物というよりデザートに近い扱いで、パスティチェリア(菓子店)やバールでは、食後の小さな甘いものと並んで出されます。食後酒ほど格式ばらず、それでいて食事の締めくくりになる。コーヒーとデザートの中間の席に、ちょうど収まる一杯と言えます。

この一杯は、家でも再現できます。用意するのは、エスプレッソと冷たいクリームだけ。食後のテーブルで、小さなカップに注いで、クリームを浮かべる。夏の夜は冷たいまま、冬は少し温めて。バールで生まれた一杯を、家の食後にそのまま持ち込めます。

共通しているのは、急いで飲まないことです。エスプレッソを一息で飲み干すのとは違って、コン・パンナは食後の時間を少しだけ引き延ばします。その数分が、この一杯の値打ちだと思います。

コン・パンナは、どう作るのか——核心は温度コントラスト

バールの正統な作り方は、シンプルです。淹れたてのエスプレッソに、無糖の生クリームを軽く泡立てて(角が立つ手前、とろりとしたソフトピークまで)、ひと匈いのせる。小さなデミタスカップで、混ぜずに出されます。クリームは乳脂肪 35〜38% のものを、砂糖を入れずに使います。甘さは足しません。エスプレッソの苦味と、クリームがもともと持っている乳の甘さ。その対比だけで成立させるのが、イタリアの流儀です。海外のコーヒーチェーンではホイップに甘みをつけた版が出てくることも多いのですが、正統は無糖の側にあります。

家で、生エスプレッソで作る場合の手順です。

一、生エスプレッソを 25ml、小さめのカップに注ぐ。
二、電子レンジで 20 秒だけ温める。熱々にはしない。
三、冷たいホイップクリームを大さじ 1、そっと浮かべる。
四、お好みでレモンピールかオレンジピールをほんの少し。
五、混ぜずに、クリームの層越しに飲む。

マシンで淹れたてを使う場合は、二の温めは要りません。逆に、少し冷ましてからクリームをのせてください。

核心は、二と三にあります。冷たいクリームと、温かいエスプレッソ。この温度差こそがコン・パンナの体験の中心で、20 秒という半端な時間には意味があります。熱々にするとクリームがすぐに溶けて、層が保てません。ほんのり温かいくらいが、いちばん長く対比を楽しめます。

夏は、温めない選択もあります。冷えたエスプレッソに、冷たいクリーム。夏の食後に向いた一杯になります。

家での唯一のハードルは、エスプレッソをどう用意するかです。私たち Espresso Refill の生エスプレッソのように瓶詰めで冷蔵保存できるエスプレッソなら、冷蔵庫から出して注ぐだけで、温かい版も冷たい版も始められます。選択肢の一つとしてご検討いただけます。

コン・パンナは、どう楽しむのが良いか——作法、アレンジ、ラベルの相性

まず、混ぜないこと。せっかくの層を混ぜてしまうと、ただのクリーム入りコーヒーになってしまいます。冷たいクリームの層を通して、温かいエスプレッソを口に運ぶ。最初はクリームの冷たさと乳の甘さ、そのすぐ後ろからエスプレッソの温度と苦味が届きます。この順番が、コン・パンナの楽しみの中心にあります。スプーンで掬いながら飲んでも構いません。

うまくいかないときは、だいたい理由が決まっています。クリームを立てすぎると、浮かばずに塊のまま沈んでしまう。スプレー缶のホイップは、温かいエスプレッソに触れた途端に消えてしまう。砂糖を入れると、エスプレッソ側の輪郭がぼやける。どれも一度やれば分かるので、失敗というより通り道だと思っていただければ大丈夫です。

少し変わった楽しみ方もあります。ひとつは主客を入れ替える方法。カップにホイップクリームを多めに取り、エスプレッソを少量だけかけて、スプーンでデザートのように食べる。ほとんどクリームを食べる一皿ですが、これが妙に良いのです。もうひとつは、エスプレッソを濃いめの水割りやお湯割りくらいに軽くのばして、その上にクリームを浮かべる飲み方。カップサイズの一杯をゆっくり飲みたい夜に向いています。

エスプレッソ側をラベルで選ぶ楽しみもあります。ER の4つのラベルで言えば、王道は Green。エスプレッソらしい厚みが、クリームと正面から釣り合います。Red はストロベリージャムを、Yellow はマーマレードを少し混ぜたホイップと合わせると、小さなデザートが一段深くなります。カフェインレスの Blue は、夜の食後にコン・パンナを楽しみたい方の選択肢になります。ラベルごとの性格は、4ラベルの選び方のページにまとめています。

朝の一杯には向きません。イタリアでも、コン・パンナは食後と午後のための一杯です。

ウインナーコーヒーとコン・パンナは、どう違うのか

クリームをのせたコーヒー、と聞いて日本で最初に思い浮かぶのは、ウインナーコーヒーだと思います。コン・パンナとウインナーコーヒーは、いとこ同士のような関係です。

日本のウインナーコーヒーは、1949 年に神田神保町の喫茶店「ラドリオ」で生まれたとされています。ドリップコーヒーの上にホイップクリームをたっぷりのせる、日本の喫茶文化のなかで育った形です。コン・パンナはエスプレッソに、小さくひと匈い。ベースのコーヒーも、クリームの量も、カップの大きさも違います。どちらが正しいという話ではなく、別々に育った似た者同士です。

名前の元になったウィーンには、アインシュペナーという一杯があります。19 世紀、辻馬車の御者が片手で飲めるように、取っ手付きのグラスにコーヒーを注ぎ、ホイップで蓋をして保温したのが始まりと言われています。

コーヒーフロートは、さらに別物です。1874 年にアメリカのフィラデルフィアで生まれたとされる、冷たいコーヒーに固形のアイスクリームを浮かべるドリンク。コン・パンナが浮かべるのは半固形のクリームで、狙っているのは温度と質感の対比です。

浮かべる仲間のなかでいちばん近いのは、実はアフォガードかもしれません。ただしあちらは、アイスにエスプレッソを垂らします。方向が逆なのです。

浮かべる一杯から、垂らす一皿へ

エスプレッソにクリームを浮かべるのが今日の話なら、アイスにエスプレッソを垂らす話もあります。アフォガードの食べ方です。同じエスプレッソでも、浮かべる一杯と垂らす一皿では、味わいの届き方が変わります。食後の一杯の次は、デザートの一皿も試してみていただけたら嬉しいです。

参照元

コン・パンナに合うラベル

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